5月最初の更新は本業:歯科トークでいってみたいと思います。
歯医者さんの仕事は、「健康な歯でものを食べるお手伝い」ですが、最近は「健康な口からちゃんと飲み込むことができるようなお手伝い」にまで広がっています。
今日は、普段当たり前にやっているこの「飲み込む」という動きが、実はなかなか難しいっていうお話です。
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最初に「飲み込む」ことを医療用語で「嚥下(エンゲ)」といいます。(この嚥下:エンゲって言葉ですけど、ただ難しいだけで「飲み込む」と全く意味が変わらないので、個人的にはなくてもいいんじゃないかと思います。)
この嚥下を理解するためには、少し体の作りを知らなければなりません。
・まず食べ物を食べる場合
口から入った食べ物は喉を通って食道から胃に入ります。
・次に息をする場合
口や鼻から入った空気は喉を通って気管から肺に入ります。
つまり、喉までは一緒なのにその先には食べ物が通る食道と空気が通る気管があって、うまいことこのどっちに行くかが分かれてるんです。
どうやって分かれてるのか少し説明すると、、、
何もしない時は口と鼻と気管はいつも開いていて食道は閉じています。そして、いざ「何かを飲み込むぞ」って時は、口、鼻、気管が塞がり、空気の逃げ道を無くして喉の奥の圧力を上げることで、普段は閉じている食道の入り口をこじ開けるのです。
ちょっとわかりにくいと思うので、実験しながら考えてみましょう!
まずは実験1:口を開けたまま唾を飲み込んでみて下さい。
これは頑張ればできますよね
じゃあ口が塞がらないと飲み込めないってのはウソじゃないか!ってことになると思うんですけど、いやいやそんなことはないんです。「口が塞がる」ってのは口を閉じることではなくて「喉の奥から空気が抜けないようにする」ってことで、この重要な働きをしているのが「舌」です。
舌が上あごと密着することで喉の奥の空気が向けないようにしているんです。
では実験2:口を開けて舌を前に出したまま唾を飲み込んでみて下さい。
コレ絶対にできないと思います!
つまり、舌で口を塞がないと飲み込むことはできないんです。
次に鼻ですが、鼻は喉の奥の方につながっていて、ものを飲み込む時にはこのつながっている部分で気づかないうちにに閉じられてます。閉じたってことは実感しにくいのですが、閉じないと飲み込めないっていうことは簡単に実感できます。
ここで実験3:鼻から息を吐き出しながら唾を飲み込んでみて下さい。
コレも絶対にできないはずです!!
飲み込む時は息が止まったはずです。これは鼻と気管の両方が閉じないと飲み込むことができない証拠です。
まぁ長々と書いてきましたが、最初に言ったように口、鼻、気管が塞がらないとものを飲み込むことはできません。そして、この「塞ぐ」という運動は舌や喉のいろんな筋肉が順序よく動くことによって始めて上手にできるのです。
ですから、この筋肉のどれかの動きが悪くなったり、麻痺があったり、手術で舌を部分的に切ってしまったような場合には「飲み込む」ということがとても難しくなります。
場合によっては飲み込んだものが食道に入らずに気管に入ってしまって肺炎を起こすこともあります。(誤嚥性肺炎:ゴエンセイハイエンといいます)
色々な検査でこういったリスクがないかどうかを調べて、適切な食べ物を、適切な方法で食べていけるようにするのも、ぼくたち口腔外科の重要な仕事のひとつです。
今日は、「飲み込む」ってことが意外に複雑な運動だっていうお話でした。
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